第0回 プロローグ:思想と経営の交差点に至る経緯
「思想の贈与論──文化資本と知の公共性」
著者:小竹竜也
連載開始:2025年9月7日
本書 連載第0回(掲載日:2025年9月7日)
成果とは数字ではなく、思想の厚みに宿る──その気づきが、本書を始める契機となった。
要旨
本プロローグは、当社の実践的課題から「思想の贈与」という理論に至る経緯を描き出す。外食産業における最低賃金上昇や人材不足といった現実課題を背景に、数値指標中心の経営に限界を見いだし、「成果」とは何かを問い直す必然性が生じた。理念共有や学び合いといった「思想の伝播」が長期的な競争力の源泉となりうることが確認され、ここに思想を贈与として捉える理論化の必要性が浮上した。本書は、経営実務を基盤としながら、思想の贈与を学術的に体系化することを目的とする。
キーワード
思想の贈与、文化資本、知の公共性、人時売上高、成果の氷山モデル、トリニタス・フレームワーク
1. 出発点:外食産業の現実課題
当社は外食産業のフランチャイズ店舗を運営し、最低賃金の上昇、人材不足、労務管理の負荷増大といった共通課題に直面してきた。従来の評価は「売上高」「人時売上高」といった数値を中心に行われてきたが、これらの指標のみでは持続可能性や文化的価値を測ることができない。数値に還元されない部分、すなわち「理念の共有」「顧客に残る体験」「スタッフ同士の学び合い」が長期的な成長に寄与していることが明らかになってきた。
2. 経営改革の試行と問いの深化
人時売上高を主指標としつつも、店長教育、評価制度、マニュアル設計において「見えにくいが本質的な価値」をどう扱うかが最大の論点となった。店舗での実践は次第に「成果とは数字だけではなく、思想がどのように受け継がれ、ふるまいとして体現されるか」に重心を移していった。こうして「思想の伝播度」や「知の継承力」といった新たな評価軸が必要であることが明確になった。これらの問いは、経営の実務を超え、哲学的探究と結びつくテーマである。
3. 理論化への必然性
以上の背景から、「成果を数値に還元する経営」から「思想を贈与する経営」への転換が求められた。思想とは所有するものではなく、贈与を通じて増殖し、文化資本として機能するものである。現場での教育や理念共有の営みは、単なる効率化施策ではなく、未来への思想贈与として読み替えるべきである。こうした理解は、モースの贈与論やブルデューの文化資本論と呼応しつつも、新しい枠組みとして体系化する必要がある。
4. 本書の位置づけ
本書(思想の贈与論体系)は、当社の経営実践を基盤としながら、思想の贈与を学術的に定義・体系化することを目的とする。その過程で、トリニタス・フレームワーク(成長・実行・持続性の統合モデル)やNODE NAVIS(知の羅針盤)の実践的知見を理論的に裏付けることになる。読者は、以下の流れに沿って本論を読み進めることによって、実務と思想がどのように結びつき、贈与という行為が文化資本へと転化していくかを理解することができるだろう。
関連ノード
- THEORY:T1(贈与の哲学的基礎)
- APPLIED:A1(評価制度の再設計)
- COMMONS:C1(公開宣言)



