第1回 消費社会と選択の合理化
「セット販売統合戦略理論──顧客体験・効率・収益・社会的安定を結ぶ普遍モデル」
著者:小竹竜也
掲載日:2026年2月1日
序論
外食産業における「セット販売」は、単なる売上施策ではない。過剰な選択肢に伴う意思決定コストを低減し、オペレーションを標準化し、人時生産性を高め、さらに価格上昇・人件費上昇局面における社会的安定へ寄与する「統合戦略」である。本連載では、数理モデルによりセット販売の合理性を明示し、運用設計まで一貫した普遍モデルを提示する。
1. 選択のパラドックスとセット販売の位置づけ
メニュー選択に伴う負荷(迷い・探索時間・後悔リスク)を総称して意思決定コスト \( C \) とする。単品注文時の効用を \( U_{s} \)、セット注文時の効用を \( U_{\mathrm{set}} \) とすると、
\[ U_{s} = V_{s} – C_{s}, \quad U_{\mathrm{set}} = V_{\mathrm{set}} – C_{\mathrm{set}} \]
ここで \( V \) は消費価値、\( C \) は意思決定コストである。セットは選択肢集約により \( C_{\mathrm{set}} < C_{s} \) を満たしやすい。従って、
\[ U_{\mathrm{set}} – U_{s} = (V_{\mathrm{set}} – V_{s}) + (C_{s} – C_{\mathrm{set}}) \]
価値差 \( V_{\mathrm{set}} – V_{s} \) が小さくても、\( C_{s} – C_{\mathrm{set}} \) が十分に大きければ \( U_{\mathrm{set}} \ge U_{s} \) が成立する。これがセット販売の第一の合理性である。
2. 店舗オペレーションと人時生産性
人時売上高を \( P \)、売上を \( R \)、総労働時間を \( H \) とすると、
\[ P = \frac{R}{H} \]
セット販売は、注文・調理・提供・会計の各工程で標準化を促し、処理時間の分散を縮小する。1オーダー当たりの期待処理時間を \( \mathbb{E}[T] \)、その分散を \( \mathrm{Var}[T] \) とすると、標準化により
\[ \mathbb{E}[T_{\mathrm{set}}] \le \mathbb{E}[T_{s}], \quad \mathrm{Var}[T_{\mathrm{set}}] \ll \mathrm{Var}[T_{s}] \]
が見込まれる。ピーク帯の待ち時間 \( W \) を簡略な待ち行列近似で
\[ W \approx \frac{\rho}{\mu – \lambda}, \quad \rho = \frac{\lambda}{\mu} \]
とすれば、標準化によりサービス率 \( \mu \) が上昇し、処理時間の分散縮小は待ち時間の揺らぎを抑える。結果として、顧客効用の低下要因 \( W \) を抑制し、回転率を安定化させるため \( R \uparrow \)、さらに必要人時 \( H \downarrow \) が同時に進む。
3. 顧客効用の定式化とセットの優位性
消費者 \( i \) が店舗 \( s \) を時点 \( t \) に利用する効用を
\[ U_{ist} = Q_{s} – \phi W_{st} – c(d_{is}) + \delta B_{\mathrm{set},st} + \varepsilon_{ist} \]
とする。ここで \( Q_{s} \) は品質、\( W_{st} \) は待ち時間、\( c(d_{is}) \) は距離・時間コスト、\( B_{\mathrm{set},st} \) はセットのベネフィットを表す。
来店確率はロジットで
\[ P(\mathrm{visit}_{ist})=\frac{\exp(U_{ist})}{\sum_{j}\exp(U_{ijt})} \]
セット導入・設計の改善により \( B_{\mathrm{set},st} \uparrow \) と \( W_{st} \downarrow \) が同時に起こるため、
\[ \frac{\partial P}{\partial B_{\mathrm{set},st}} > 0, \quad \frac{\partial P}{\partial W_{st}} < 0 \]
となり、セット最適化は需要の安定成長をもたらす。
4. 店舗側の最適化
店舗は資源 \( B \) を「セット設計 \( x_{D} \)」「価格設計 \( x_{P} \)」「標準化 \( x_{O} \)」「教育 \( x_{E} \)」に配分し、利潤
\[ \Pi = \sum_{t}(R_{t}(x_{D},x_{P},x_{O},x_{E}) – C_{t}(x_{D},x_{P},x_{O},x_{E})) \]
を最大化する。標準化は処理分散縮小、教育は意思決定コスト低下を通じて効用を高める。
5. 定理と示唆
定理1(効用差分の条件)
\[ U_{\mathrm{set}} – U_{s} = (V_{\mathrm{set}} – V_{s}) + (C_{s} – C_{\mathrm{set}}) \]
この差が正ならセット販売が選択される。価格割引が小さくても「迷い削減効果」で優位は確立される。
定理2(人時生産性の同時改善)
標準化によって \[ \frac{\partial P}{\partial x_{O}} > 0 \] が成立する。すなわちセット販売は売上と効率を同時に改善する。
結論
セット販売は、(1)意思決定コストの低減、(2)標準化による効率改善、(3)収益と社会的安定の両立を実現する。今後は「均衡モデル」として需要と供給の両側を統合し、価格・設計・標準化投資の最適配分を示す。
次回予告
第2回では「効用最大化とコスト最小化の均衡モデル」を展開し、セット販売の統合理論をさらに深化させる。



