行いと関係を生かす

「明徳とは何を明らかにすることなのか」第8回

前回は、制度があるから正しくなるのではなく、制度をどう使い、目の前の状況をどう判断するかが大切だということを書きました。

では、その判断は何のためにあるのでしょうか。

私は、その先にある「行い」と「関係」を考える必要があると思います。

私たちの仕事は、一人で完結するものではありません。

店長がスタッフに何かを伝える。
スタッフがお客様に接する。
本部が制度をつくる。
誰かが報告し、それを受けた誰かが判断する。

一つの行いは、必ず誰かとの関係の中に置かれます。

そして、その行いによって関係は少しずつ変わっていきます。

たとえば、部下に注意しなければならない場面があります。

間違っていることを、間違っていると言わなければならないこともあります。

そのとき、注意すること自体が悪いわけではありません。

しかし、感情をぶつける。
人格まで否定する。
人前で追い詰める。

そうなれば、注意した内容が正しくても、その後の関係は違ったものになります。

反対に、相手との関係を壊したくないから何も言わないことが、いつも正しいわけでもありません。

言うべきことを言わなければ、本人のためにもならず、周囲にも負担を残すことがあります。

つまり、徳とは優しいことではありません。

波風を立てないことでもありません。

必要なことを行いながら、その行いが相手や周囲との関係に何をもたらすのかまで考えることです。

ただし、ここで注意しなければならないことがあります。

正しいと思って行ったことが、必ずよい結果を生むとは限りません。

丁寧に伝えたつもりでも、相手には違って受け取られることがあります。

その場では反発された注意が、後になって意味を持つこともあります。

反対に、その場では丸く収まった判断が、時間がたって問題を大きくすることもあります。

だから、徳を「よいことをすれば、よい関係になる」という単純な話にしてはいけないのだと思います。

行いが関係を変える。

変わった関係の中で、次の状況が生まれる。

そして、その新しい状況の中で、私たちはまた判断し、行動する。

仕事は、この繰り返しです。

制度についても同じことが言えます。

たとえば、遅刻が増えたから規則を厳しくする。

それ自体は、一つの合理的な判断かもしれません。

しかし、その原因が勤務時間の組み方にあるのか、人員配置にあるのか、本人の意識にあるのかによって、必要な対応は変わります。

原因を確かめないまま罰則だけを強くすれば、一時的に遅刻は減っても、別のところに問題が生まれるかもしれません。

だからといって、事情を聞けばそれでよいわけでもありません。

必要なら規律を求める。

制度を変える必要があれば変える。

しかし、その判断によって人がどう動き、店がどう変わり、その後に何が生まれるのかまで考える。

そこまで含めて、制度を生かすということなのだと思います。

お客様との関係も同じです。

スタッフ同士の関係も、本部と店舗の関係も、上司と部下の関係も同じです。

私たちは毎日、数え切れないほどの小さな判断をしています。

その一つひとつが、その場で消えてなくなるわけではありません。

言葉が残ることがあります。

態度が残ることがあります。

信頼として残ることもあれば、不信として残ることもあります。

そして、それらが次の行動を生みます。

だから大切なのは、一つの行いだけを切り取って「正しかった」「間違っていた」と決めることではないのでしょう。

その行いによって関係がどう変わったのか。

変わった関係の中で、次に何が起きたのか。

自分の判断を変える必要はないのか。

そこまで問い続けることです。

徳とは、正しい答えを最初から知っていることではありません。

自分の行いが生んだものから目をそらさず、必要なら次の判断を変えることのできる力でもあります。

では、「関係を生かす」とは、どういうことでしょうか。

私は、いつも仲良くしていることではないと思います。

たとえば、厳しいことを伝えたあとでも、次に問題が起きたときには、また事実を報告できる。

困ったときには相談できる。

違うと思えば、それを言うことができる。

そうして、次の行いが生まれる余地が残っている。

それも、関係が生きている一つの姿なのだと思います。

関係を生かすとは、関係を固定することではありません。

壊さないように守り続けることでもありません。

必要なときには動かし、ときには摩擦を引き受け、それでも次の行いへつながるようにしていく。

行いが関係を変え、変わった関係が次の判断を生む。

その連なりの中に、徳は現れるのだと思います。

そして店長は、この行いと関係の連なりから離れることのできない立場にいます。

店長の一つの判断が、スタッフの行いを変えます。

スタッフの行いがお客様との関係を変えます。

その積み重ねが、やがて店そのもののあり方をつくっていきます。

では、店長に求められる徳とは、どのようなものなのでしょうか。

次回は、そこを考えてみたいと思います。

(2026年8月30日)


執筆者 小竹 竜也(Tatsuya Kotake)
株式会社フーズサポートモリカ 本部長。
日々の実務から問いを立て、理論と現実をつなぐことをテーマに執筆している。

著書『徳とは、時を流す力である』を2026年6月、Amazon にて発刊。

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