管理職の見識 第2回 感情を聞くことと、感情で判断することは違う

前回は、印象だけで人を評価してはいけない、ということについて書きました。

「圧がある」
「きつい」
「怖い」
「扱いにくい」

こうした言葉は、現場でよく聞かれます。

しかし、それはあくまで周囲が受け取った印象です。管理職は、その印象をそのまま評価にしてはいけません。印象を受け止めたうえで、事実に戻し、その人の行動や成果を見極める必要があります。

今回扱うのは、印象ではなく感情です。

スタッフから不満や相談を受けるとき、そこには必ず感情があります。

たとえば、あるスタッフが店長にこう相談してきたとします。

「自分だけ厳しく言われている気がします」
「あの人の言い方がきついです」
「正直、怖いです」
「これってパワハラではないですか」

こうした相談を受けたとき、管理職に必要なのは、まずその感情を否定しないことです。

つらいと感じたこと。
怖いと感じたこと。
不満に思ったこと。
納得できなかったこと。

それらの感情が本人の中に生じたこと自体は、否定できません。

ここで最初から、

「そんなことはない」
「気にしすぎだ」
「あなたの受け取り方の問題だ」

と返してしまえば、相談は止まります。表に出ていた不満は、裏に回ります。

だから、感情を聞くことは必要です。

しかし、感情を聞くことと、感情で判断することは違います。

本人がそう感じていることと、その感じ方の理由が正しいことは同じではありません。

「自分だけ厳しく言われている気がする」ことは事実です。
けれども、「本当にその人だけが厳しく扱われている」とは、まだ言えません。

「言い方がきついと感じた」ことは事実です。
けれども、「相手の指導が間違っていた」とは、まだ言えません。

「怖いと感じた」ことは事実です。
けれども、「パワハラがあった」とは、まだ言えません。

感情は、現場で何かが起きていることを知らせる大事な信号です。

しかし、信号は結論ではありません。

ここを間違えると、管理職の判断は崩れます。

誰かが「つらい」と言ったから、相手が悪い。
誰かが「不公平だ」と言ったから、本当に不公平である。
誰かが「怖い」と言ったから、ただちにパワハラである。

そう判断してしまうと、管理職は感情を聞いているつもりで、実際には相談者の受け止め方をそのまま結論にしていることになります。

感情を否定しないことと、感情の解釈をそのまま採用することは違います。

ここが、管理職にとって非常に重要な線引きです。

たとえば、声が大きい人がいます。体格が大きい人がいます。語気が強い人がいます。話し方に迫力がある人もいます。

それによって、相手が「圧を感じた」ということはあります。

その感情自体は、軽く扱ってはいけません。相手が怖いと感じた。萎縮した。言い返せなかった。そういう受け止めがあったなら、管理職はきちんと聞く必要があります。

しかし、「圧を感じた」ことと、「パワハラがあった」ことは同じではありません。

声が大きいからパワハラ。
体格が大きいからパワハラ。
語気が強いからパワハラ。
相手が怖いと感じたからパワハラ。

そう短絡してしまうと、感情と事実、印象と判断が混同されます。

本当に確認すべきなのは、そこではありません。

実際に何を言ったのか。
どの場面で言ったのか。
業務上必要な指導だったのか。
言い方や頻度は過剰ではなかったのか。
人格を否定するような表現があったのか。
見せしめのような扱いになっていなかったのか。
相手の働き方や職場での状態に、どのような影響が出ているのか。

これらを確認しなければ、管理職としての判断にはなりません。

もちろん、逆も危険です。

「声が大きいだけだから問題ない」
「体格が大きいだけだから仕方ない」
「本人の受け取り方の問題だ」

こう片づけるのも、管理職としては不十分です。

大きな声や強い語気が、業務上必要な範囲を超えて相手を萎縮させているなら、そこには改善すべき問題があります。指導の内容が正しくても、伝え方が不適切であれば、現場の信頼は損なわれます。

だから、感情は無視してはいけません。

しかし、感情だけで結論を出してもいけないのです。

「自分だけ厳しく言われている」という相談にも、いくつかの可能性があります。

本当にその人だけが強く注意されているのかもしれません。
同じ注意でも、その人だけが強く受け止めているのかもしれません。
その人の役割や経験に応じて、求める水準が高くなっているのかもしれません。
注意の内容は正しいが、伝え方に問題があるのかもしれません。
そもそも、なぜ注意されたのかが本人に伝わっていないのかもしれません。

この違いを見ずに判断すると、管理職は対応を誤ります。

本当に不適切な指導があったなら、止めなければなりません。
説明不足が原因なら、伝え直さなければなりません。
本人の役割に対する理解不足なら、求める水準を説明しなければなりません。
本人の感情が先に立っているなら、感情を受け止めたうえで、何が起きたのかを一緒に確認しなければなりません。

感情を聞かない管理職は、現場の変化に気づけません。

しかし、感情だけで判断する管理職は、現場の基準を崩してしまいます。

スタッフの気持ちに寄り添うことは大切です。けれども、寄り添うことは、すべてを相手の感じた通りに判断することではありません。

相談を受けたとき、管理職は次の三つを確認する必要があります。

一つ目は、本人が何を感じたのか。
感情は否定せず、まず受け止める。

二つ目は、実際に何が起きたのか。
発言、場面、頻度、関係性、業務上の必要性を確認する。

三つ目は、管理上どう判断すべきか。
感情だけでなく、役割、責任、基準に戻して考える。

感情を聞く。
しかし、感情で決めない。

その線引きができるかどうかに、管理職の見識が表れます。
(2026年7月15日)


執筆者 小竹 竜也(Tatsuya Kotake)
株式会社フーズサポートモリカ 本部長。
日々の実務から問いを立て、理論と現実をつなぐことをテーマに執筆している。

著書『徳とは、時を流す力である』を2026年6月、Amazon にて発刊。

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