管理職の見識第4回 管理職の能力は二層で考える

~「任せてよいか」と「どこまで任せられるか」は別の問題~

管理職を評価するとき、私たちはつい「能力が高いか、低いか」という話から始めます。

判断力がある。
数字に強い。
部下を育てられる。
問題を解決できる。
現場をまとめられる。

もちろん、どれも重要な能力です。

しかし、管理職を考えるうえでは、その前に確認しなければならないことがあります。

その人に、そもそも管理権限を任せてよいのか。

私は、管理職に求められるものは一つの能力ではなく、二つの層に分けて考えた方がよいと思っています。

第一層は、管理職としての前提条件

第二層は、管理能力です。

この二つは並列ではありません。

まず前提条件を確認し、そのうえで管理能力を評価するという順序があります。

第一層は「管理職としての前提条件」

管理職には、一般の社員より大きな権限が与えられます。

人を評価する。
勤務を管理する。
数字を報告する。
ルールを運用する。
問題が起きたときに判断する。
会社に代わって現場で意思決定する。

つまり管理職とは、単に仕事のできる人ではありません。

組織から判断権限を預けられた人です。

だからこそ、能力を見る前に、

「この人に判断を預けてもよいか」

を確認しなければなりません。

たとえば、

事実を意図的に変えない。
都合の悪い情報を隠さない。
数字を恣意的に操作しない。
自分だけを例外扱いしない。
私的な都合を組織の判断に持ち込まない。
間違いがあれば認め、修正する。

こうしたものは、単なる能力評価の一項目ではありません。

管理職として権限を持たせるための前提条件です。

第二層が「管理能力」

その前提を満たしたうえで、管理能力を評価します。

管理能力とは、

事実を正しく把握できるか。
目的を明確にできるか。
問題を構造化できるか。
優先順位をつけられるか。
限られた人員や時間を適切に配分できるか。
部下を育てられるか。
施策を実行し、結果を検証できるか。

といった、

組織をどれだけ適切に動かせるかという能力です。

ここには当然、個人差があります。

経験が浅ければ判断を誤ることもあります。

数字の読み方が弱いこともあります。

部下への指導がうまくできないこともあります。

しかし、このような管理能力の不足であれば、教育や経験、支援によって改善できる可能性があります。

つまり、管理能力の不足は基本的に育成の問題です。

この二つを、一つの総合点にしてはいけない

前提条件と管理能力を、一つの総合点にまとめてしまうと、両者の違いが見えにくくなります。

たとえば、

信頼性は低いが、管理能力は高い。

あるいは、

管理能力は低いが、誠実さは高い。

こうした状態を単純に点数化し、足し合わせれば、互いに補えるように見えてしまいます。

しかし、前提条件と管理能力は、そのような関係ではありません。

前提条件は、管理能力の点数を増減させるものではなく、

その能力にどこまで権限を与えてよいかを判断するための入口です。

もちろん、前提条件を「満たす・満たさない」のように扱えば、数式上は管理能力との掛け算で表すこともできます。

しかし重要なのは、数式の形ではありません。

前提条件と管理能力を、同じ尺度の点数として相殺させないことです。

まず、管理権限を委ねるための前提が成立しているかを確認する。

そのうえで、管理能力に応じて委ねる範囲を判断する。

本当に重要なのは、この評価の順序です。

信頼を人格と能力の双方から考える枠組みは、既存のリーダーシップ論にもあります。

本稿で重視したいのは、両方が大切だということ自体ではありません。

前提条件を管理能力と同列に評価せず、権限委任の成立条件として先に判定することです。

「能力は高いが、信頼できない」は成立するのか

これは概念としては成立します。

営業能力が高い。
問題処理が速い。
現場を回す力がある。

そうした個別能力が高い人は、確かにいます。

しかし、その人が同時に、

数字を意図的に良く見せる。
都合の悪い事実を報告しない。
自分の判断を正当化するために情報を変える。
重大なルール違反を自分だけ例外扱いする。

という行動を取るのであれば、

「能力が低い人」なのではありません。

個別能力は高い。

しかし、

管理職として、その能力を行使させる前提条件を満たしていない

と考えるべきです。

ここを混同すると、問題の本質を見失います。

能力があることと、その能力に権限を与えてよいことは、同じではありません。

信頼できない管理職は、組織の管理を増やす

管理職から上がってくる数字を毎回確認しなければならない。

勤怠を別の人が確認しなければならない。

報告内容が事実かどうか、さらに現場まで調べなければならない。

そうなれば、権限を委ねている意味が失われます。

本来、管理職を置くことで、上位者が直接確認しなければならない範囲は減るはずです。

ところが、その管理職自体を監視しなければならなくなれば、逆に管理コストが増えてしまいます。

これは単なる人間関係や好き嫌いの問題ではありません。

権限委任という仕組みそのものが成立しなくなる問題です。

前提条件を満たしていても、管理能力が高いとは限らない

反対のケースもあります。

誠実である。
嘘をつかない。
ルールを守る。
分からないことを分からないと言える。
間違いを指摘されれば修正できる。

しかし、

判断が遅い。
優先順位がつけられない。
数字から問題を発見できない。
部下を育てられない。

という人もいます。

この場合は、

管理職としての前提条件は満たしているが、管理能力が不足している

と評価できます。

ここでは育成が有効です。

経験を積ませる。
判断基準を教える。
任せる範囲を調整する。
必要な支援をつける。

こうして、管理能力を高めていくことができます。

前提条件に問題がある場合は、育成とは別に考える

一方、前提条件に問題がある場合は、対応が変わります。

単に研修を増やせばよいという話ではありません。

まず必要なのは、

その人にどこまで権限を委ねてよいのかを見直すことです。

判断できる範囲を狭める。

重要な報告には確認を入れる。

権限を縮小する。

必要であれば配置を変更する。

そして、問題が重大であったり、繰り返されたりする場合には、管理職という役割そのものを見直す必要があります。

つまり、

管理能力の不足は、育成の問題。

前提条件の不足は、委任と統制の問題。

同じ「管理職として問題がある」という状態でも、問題の種類が違えば、対応も変わります。

管理職評価は二段階で考える

管理職を評価するとき、最初から一つの総合点をつける必要はありません。

まず、

この人に管理権限を委ねてよいか。

を確認します。

これが第一段階です。

そのうえで、

どの程度の複雑性や裁量、責任まで委ねられるか。

を管理能力によって判断します。

これが第二段階です。

言い換えれば、

第一段階は「委任可能性」の判定。

第二段階は「委任範囲」の判定。

ということになります。

この順序を分けて考えることで、

能力不足なのか。

それとも、そもそも権限を委ねる前提に問題があるのか。

を明確にできます。

そして、その違いが分かれば、対応も変わります。

育成するのか。

支援をつけるのか。

権限を縮小するのか。

役割そのものを見直すのか。

管理職評価とは、人を一つの点数で順位づけすることだけではありません。

どの権限を、誰に、どこまで委ねることができるのかを判断することでもあります。

まず委ねる前提を見極め、そのうえで委ねる範囲を判断する。

この順序を間違えないことが、管理職を選び、育て、評価するうえでの出発点になると思います。
(2026年8月12日)


執筆者 小竹 竜也(Tatsuya Kotake)
株式会社フーズサポートモリカ 本部長。
日々の実務から問いを立て、理論と現実をつなぐことをテーマに執筆している。

著書『徳とは、時を流す力である』を2026年6月、Amazon にて発刊。

SSRN掲載論文・研究活動はこちら