管理職の見識 第6回「できる・できない」で人を見ない

「あの人は仕事ができる」
「あの人は、まだできない」

職場では、よく使われる言葉です。

しかし、ここで一度考えてみる必要があります。

何をもって「できる」と言っているのでしょうか。

仕事が速いことなのか。
ミスが少ないことなのか。
お客様への対応が上手なことなのか。
周囲を見ながら動けることなのか。

私たちは、人を評価するとき、知らず知らずのうちに何らかの物差しを使っています。

そして、その物差しが一つしかなければ、人は簡単に「できる人」と「できない人」に分かれてしまいます。

しかし、本当にそれでよいのでしょうか。

青年時代に知った「中心は一つではない」ということ

私が物事を二つに分けて考えることに慎重なのは、青年時代の経験に端を発しているのかもしれません。

当時、私はワールドミュージックに強く惹かれました。

ヌスラット・ファテ・アリー・ハーンやユッスー・ンドゥールは、私が触れていた音楽の世界では大スターでした。ブラジルにはジョアン・ボスコのような大きな存在がいました。

しかし、彼らが世界中の誰にとっても同じように「メジャー」だったわけではありません。

ある場所では誰もが知る存在でも、別の場所ではほとんど知られていない。

そこで私は、世界には一つの「メジャー」があり、その周辺に「マイナー」があるわけではないのだと感じました。

それぞれの場所に、それぞれの中心がある。

こちらから見て周辺に見えるものが、その場所では中心にある。

メジャーか、マイナーか。

そう二つに分ければ分かりやすいのですが、現実はそれほど単純ではありません。

人を見ることも、これに似ています。

「できるか」ではなく、「何ができるか」

例えば、接客が上手で売上もつくれる人がいれば、「仕事ができる人」と評価されやすいでしょう。

一方で、普段はそれほど目立たなくても、店が混み始めた時にいち早く異変に気づき、料理の遅れや周囲の混乱が大きくなる前に動ける人もいます。

どちらが「できる人」なのでしょうか。

そもそも、この二人を一本の物差しで比べる必要があるのでしょうか。

人には、それぞれ違う力があります。

作業が速い人もいれば、正確な人もいる。
数字に強い人もいれば、人の変化によく気づく人もいる。
一人で成果を出す人もいれば、周囲を安定させる人もいる。

だから、管理職が問うべきなのは、

「この人はできるか、できないか」ではなく、「この人には何ができるのか」

ではないでしょうか。

「できる・できない」と一言で括ってしまえば、本来はいくつもある能力が、一つの序列に置き換えられてしまいます。

しかも、その序列をつくる物差しを決めているのは、多くの場合、評価する側です。

自分が速さを重視すれば、慎重な人は遅く見える。
積極性を重視すれば、よく見てから動く人は消極的に見える。

人を見ているつもりで、実は自分の物差しに合っているかを見ているだけ、ということもあります。

そして、この物差しの問題には、もう一つの顔があります。

見えやすいものほど、「できること」として評価されやすいということです。

売上は数字になります。
作業の速さは目に見えます。
接客の上手さも比較的分かりやすいでしょう。

しかし、

問題が起きる前に気づいたこと。
周囲の混乱を防いだこと。
新人が困らないように支えたこと。

こうした仕事は、結果として「何も起こらなかった」ため、評価されにくいことがあります。

けれども、何も起こらなかったことが、その人の力による場合もあります。

目に見える成果だけを物差しにすれば、こうした力は見えません。

そして、見つけやすい能力を持った人だけが「できる人」と呼ばれるようになります。

もちろん、仕事には共通して守るべき基準があります。

しかし、それと、人そのものを一つの尺度で評価することは別の話です。

自分の物差しを疑う

「あの人はできる」

「あの人はできない」

そう判断した時、そこで結論を出す前に、管理職が自分に向けて問い直してみる。

私は、何の物差しでこの人を見ているのか。

次に、

この人には、何ができるのか。

そして、

どの場なら、その力が生きるのか。

この三つの問いは、似ているようで少しずつ違います。

最初の問いは、評価する自分自身を見る問いです。

二つ目は、相手を「できる・できない」という一言から解放して、その人の力を見る問いです。

三つ目は、その力と仕事との関係を見る問いです。

同じ人でも、任される仕事や置かれる状況が変われば、見えてくる力は変わります。

だから、人を見るということは、一度評価して終わることではありません。

見方を変え、場を変え、もう一度見る。

そこではじめて、それまで見えなかった力が見えることがあります。

青年時代、ワールドミュージックを聴きながら感じた「中心は一つではない」という感覚は、今も私の中に残っています。

人についても同じなのだと思います。

一つの中心からすべてを見ない。
簡単に二つに分けない。

何の物差しで見ているのか。
何ができるのか。
どこで、その力が生きるのか。

この三つを問い続けること。

それが、管理職が人を見るときに持っておきたい見識ではないでしょうか。

次回は、その先を考えます。

見つけた力を、どのような役割につなげ、組織の中でどう生かすのか。

強い人材をどう生かすか。

そこを考えてみたいと思います。
(2026年9月2日)


執筆者 小竹 竜也(Tatsuya Kotake)
株式会社フーズサポートモリカ 本部長。
日々の実務から問いを立て、理論と現実をつなぐことをテーマに執筆している。

著書『徳とは、時を流す力である』を2026年6月、Amazon にて発刊。

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