第7回 思想の贈与論の総括──理論から実践への架橋
「思想の贈与論──文化資本と知の公共性」
著者:小竹竜也
連載開始:2025年9月7日
本書 連載第7回(掲載日:2025年10月26日)
思想の贈与は、贈与の哲学的基盤から始まり、文化資本、公共性、制度、実践知を経て、循環的な知のモデルへと至った。本章はその総括として、理論を実務へと接続する架橋を示す。
要旨
本稿は、これまで展開してきた思想の贈与論(T1〜T6)を総括し、全体の理論的枠組みを整理する。贈与は一方向的な移転ではなく、関係性と時間性を基盤とする循環的営みである。思想は文化資本として蓄積され、公共性において共有され、制度によって保存されつつ、店舗の実践知によって更新される。この循環が成立することで、思想は社会的に実装され持続可能性を獲得する。本稿では、理論編をまとめるとともに、次回以降の応用編(評価制度・労務管理・教育制度)への接続を提示する。
キーワード
思想の贈与、文化資本、公共性、制度、実践知、循環、総括、理論と実践
1. 贈与の哲学的基盤の整理
モースの三段階構造、デリダの逆説、東洋思想の贈与観を総合し、贈与は交換に還元されない倫理的・時間的営みであることを確認した。
2. 文化資本と公共性
思想は承認と制度を通じて文化資本となり、公共性に開かれることで社会的効力を持つ。公共性の場で再流通する思想は、文化資本として再生産される。
3. 制度と実践知の循環
制度は思想を形式知として保存し、店舗の実践知は制度を更新する。両者の相互作用によって、思想は硬直化せず、柔軟に循環する。
4. 知の循環モデルの提示
思想の贈与論を統合すると、次の循環モデルが描かれる。
- 贈与(与える/受ける/返す)
- 文化資本としての承認と蓄積
- 公共性における流通と再解釈
- 制度による保存と実践知による更新
- 循環としての社会的実装
5. 総括の暫定命題
命題1:思想の贈与は、文化資本・公共性・制度・実践知を媒介とする循環的プロセスである。
命題2:循環を通じて思想は持続可能な社会資源となり、経営や組織に実装される。
6. 理論から実践への架橋
本書の理論編(T1〜T7)は、思想の贈与を学術的に体系化した。次回以降は、この理論を経営や組織運営に応用する応用編(APPLIED編)に進む。評価制度、労務管理、教育制度といった具体的領域で、思想の贈与がどのように制度設計や実践に寄与するかを展開する。
関連ノード
- APPLIED:A1(評価制度の再設計)
- APPLIED:A3(労務管理における思想の制度化)
- COMMONS:C1(公開宣言)
参考文献(抜粋)
- Mauss, M. (1925). Essai sur le don.
- Derrida, J. (1991). Donner le temps I.
- Bourdieu, P. (1979). La Distinction.
- Habermas, J. (1962). Strukturwandel der Öffentlichkeit.
- Polanyi, M. (1966). The Tacit Dimension.
- Nonaka, I. & Takeuchi, H. (1995). The Knowledge-Creating Company.



