第5回 実践知と制度の相互作用──柔軟な知の循環構造
「思想の贈与論──文化資本と知の公共性」
著者:小竹竜也
連載開始:2025年9月7日
本書 連載第5回(掲載日:2025年10月12日)
制度が硬直すると思想は枯れる。実践知が制度を揺さぶるとき、制度は再び生きた知の器となる。
要旨
本稿は、制度に保存された形式知と、店舗で培われる実践知の相互作用を論じる。制度は思想を保存するが、店舗での適用を通じて初めて意味を持つ。他方、店舗の実践知は制度を更新し、柔軟な構造へと再編成する。実践知と制度の相互作用は、思想の贈与が硬直せずに持続するための循環構造を生み出す。本稿では、実践知の特徴を整理し、制度設計における更新性の必要性を提示する。
キーワード
実践知、制度、思想の贈与、更新性、柔軟性、循環構造、経験知、適応
1. 序論:制度と実践知の乖離
制度に保存された形式知は、店舗から切り離されると形骸化する。理念や規範が現場で活用されなければ、制度は知の器として空洞化する。制度と店舗の距離を縮めることが、思想の贈与を生かす鍵となる。
2. 実践知の特性
実践知は経験に根ざし、状況に応じて柔軟に適用される知である。形式知のように文書化・標準化は難しいが、その柔軟さゆえに店舗を動かす力を持つ。実践知は制度を超えて働き、制度が対応できない新たな課題に応答する。
3. 制度を更新する実践知
実践知は制度の限界を露呈させる契機となる。店舗の知が制度にフィードバックされることで、制度は更新され、生きた知の循環が成立する。制度は固定化されるのではなく、実践知によって絶えず刷新される必要がある。
4. 実践知と制度の相互作用の暫定命題
以上を踏まえ、次の命題を提示する。
命題1:制度は実践知を取り込むとき、硬直から柔軟へと変容する。
命題2:実践知は制度を更新し、思想の贈与を循環させる力を持つ。
本書の第5回は、制度と実践知の相互補完的関係を描き、思想の贈与が単なる保存ではなく更新を伴う循環構造であることを明らかにした。次回以降は、こうした理論を実際の経営制度(評価・労務管理)に応用する展開へと進む。
関連ノード
- THEORY:T6(知の循環と社会的実装)
- APPLIED:A3(労務管理における思想の制度化)
- COMMONS:C3(実践知共有のための場づくり)
参考文献(抜粋)
- Schön, D. (1983). The Reflective Practitioner. Basic Books.
- Nonaka, I., & Takeuchi, H. (1995). The Knowledge-Creating Company. Oxford University Press.
- 小竹竜也(2025-)「思想の贈与論」連載各回



