第3回 残業はなぜ事前申請なのか

時間を延ばす前に、必要性を確認する

この記事は、労務管理をテーマにしたシリーズの第3回です。

第2回では、残業を単なる時間の超過ではなく、店舗の状態を映すものとして考えました。

仕事が予定した時間に終わらなかったとき、そこにはさまざまな理由があります。

予想以上にお客様が多かったのかもしれません。人員配置が十分ではなかったのかもしれません。仕込みや事務作業の進め方に問題があった可能性もあります。また、誰が対応するのかが曖昧なまま、仕事が特定の人に残っていたのかもしれません。

残業時間を記録するだけでは、こうした理由までは分かりません。

だからこそ、時間を延ばして働く前に、何の業務が残っているのか、なぜ今日中に行う必要があるのかを確認します。

それが、残業を事前申請とする意味です。

事前申請は、残業を禁止するためのものではない

「残業は事前申請です」と伝えると、「残業をしてはいけないということですか」と受け取られることがあります。

しかし、事前申請は、必要な残業まで一律に禁止するためのものではありません。

営業状況によっては、その日のうちに対応しなければならない仕事があります。急なお客様対応や機器のトラブル、翌日の営業に必要な仕込みなど、予定どおりに終わらないこともあります。

そのようなときに必要なのは、残業を隠したり、無理に仕事を打ち切ったりすることではありません。

必要な業務であることを店長と共有し、どのように対応するかを判断することです。

残業を各自の判断だけに任せると、どの業務に時間がかかっているのか、なぜ残らなければならないのかが見えなくなります。反対に、残業を一律に認めない運用にすると、仕事や労働時間が表に出なくなるおそれがあります。

必要な残業を正しく把握し、不要な残業を減らすために、事前申請があります。

申請で確認すること

残業を申請するときには、少なくとも次の三点を明らかにします。

  • 何の業務を行うのか
  • なぜ今日中に行う必要があるのか
  • どれくらいの時間が必要なのか

「仕事が残っているから」というだけでは、残業の必要性を判断できません。

まず、残っている業務を具体的にします。仕込みなのか、清掃なのか、発注なのか、金銭管理なのかによって、対応の仕方は変わります。

次に、その業務を今日中に行う必要があるかを確認します。翌日の営業に必要な仕込み、継続中のお客様対応、当日中に確認しなければならない金銭管理などは、その日のうちに対応する必要があります。

一方、翌日でもよい整理作業や、急ぎではない確認作業であれば、その日に残って行う必要があるとは限りません。

また、業務上必要だからではなく、本人が自分の判断で作業の範囲を広げたり、必要以上に完成度を求めたりしている場合もあります。これは業務の緊急性とは別の問題です。その場合は、残業を続ける前に、どこまでが必要な業務なのかを本人と確認します。

店長は、何の業務が残っているかだけでなく、それが本当に必要な業務なのか、今日行うべき仕事なのかを分けて考える必要があります。

必要な時間を確認することも重要です。

十五分で終わる作業なのか、一時間かかる作業なのかによって、承認するだけでよいのか、ほかの人が手伝うべきなのか、翌日に回すべきなのかという判断が変わります。

店長が判断すべきこと

残業の申請を受けた店長の役割は、申請を承認するか、却下するかだけではありません。

残っている業務を確認し、その仕事を本当に今日行う必要があるのか、本人が続けるべきなのか、ほかの人と分担できないのかを判断します。

必要な残業であれば、必要な時間を確認したうえで承認します。ほかのスタッフが手伝うことで早く終えられるなら、役割を組み替えます。翌日でも支障がない仕事であれば、その日の作業を終了させます。

残業の判断は、勤怠の処理ではありません。営業の判断です。

同じ業務で繰り返し残業が発生しているなら、個人の働き方だけの問題ではないかもしれません。

人員配置、仕込み量、作業手順、役割分担、指示の出し方など、店舗の運営そのものを見直す必要があります。

事前申請によって残業の理由を確認することは、誰かを責めるためではありません。予定した時間内に仕事を終えるために、何を整える必要があるのかを見つけるためです。

事前に申請できなかったとき

店舗では、すべてを事前に予測できるわけではありません。

急なお客様対応や機器のトラブル、営業終了間際の予想外の出来事など、その場で対応しなければならず、事前に申請する余裕がないこともあります。

その場合は、対応が落ち着いた後、できるだけ速やかに店長へ報告します。

何の対応を行ったのか、なぜ残業になったのか、どれくらいの時間を要したのかを伝えます。

事前申請ができなかったからといって、実際に働いた時間を記録しなくてよいわけではありません。申請の有無とは別に、実際に働いた時間は正しく打刻し、報告する必要があります。

店長は、申請がなかったことだけを取り上げるのではなく、なぜ事前に予測できなかったのか、同じ状況が繰り返されていないかを確認します。

事前に準備できることがあったのか、人員配置を変える必要があるのか、対応方法を決めておくべきなのかを考え、次の営業に生かします。

事前申請は、働き方を整えるための基本である

事前申請は、スタッフが働くことを制限するための手続ではありません。

時間を延ばして働く前に、残っている業務とその必要性を共有し、店長が対応を判断するための仕組みです。

何の業務が残っているのか。なぜ今日中に行う必要があるのか。どれくらいの時間が必要なのか。

この三点を確認することで、必要な残業と、見直すことのできる残業を分けられるようになります。

残業を減らすとは、働いた時間を見えなくすることではありません。

残業が発生した理由を把握し、できる限り予定した時間内に仕事を終えられるように、業務の進め方や店舗の運営を整えることです。

事前申請は、そのための最初の確認です。


執筆者 小竹 竜也
株式会社フーズサポートモリカ 本部長。
日々の実務から問いを立て、理論と現実をつなぐことをテーマに執筆している。

著書『徳とは、時を流す力である』を2026年6月、Amazon にて発刊。

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