第1回 評価制度の再設計──思想の贈与を基盤とした公平性の確立
「思想の贈与論──文化資本と知の公共性」 APPLIED編
著者:小竹竜也
連載開始:2025年9月7日
本書 APPLIED編 第1回(掲載日:2025年11月2日)
評価とは数字をつけることではない。思想を贈与し合う組織において、公平性は制度を通じて保障される。
要旨
本稿は、思想の贈与論を評価制度に応用する試みである。従来の評価制度は、数値目標や業績に偏重し、思想や行動の贈与を十分に評価してこなかった。その結果、制度は不公平感を生み、組織の信頼性を損なうことがある。本稿では、思想の贈与を基盤に据えた評価制度の設計を提案する。思想の贈与は、文化資本としての承認、公共性における共有、制度への保存と更新という循環を通じて機能する。評価制度はこの循環を制度的に担保する仕組みでなければならない。
キーワード
評価制度、公平性、思想の贈与、文化資本、公共性、制度設計、信頼、循環
1. 序論:従来型評価制度の限界
多くの組織において評価制度は業績指標に依存しがちである。売上や利益は重要だが、それだけでは組織を持続させる力にはならない。思想の贈与を無視した評価は、組織文化を損ない、長期的には人材流出や信頼喪失を招く。
2. 思想の贈与を評価する視点
思想の贈与は、知識やノウハウを共有する行為だけでなく、態度、倫理、行動の模範としても現れる。店舗における教育、顧客対応、仲間への支援は、思想の贈与そのものである。これを評価の対象に含めることが、公平性と信頼性の回復につながる。
3. 公平性の制度的担保
公平性は単に「同じ基準で測る」ことではなく、「思想の贈与が循環する仕組みを保障する」ことで担保される。例えば、成果を出すだけでなく、他者に知を伝え、店舗全体の質を高める行為を制度に組み込むことが必要である。
4. 評価制度再設計の暫定命題
命題1:評価制度は、思想の贈与を基盤とした公平性を確立する枠組みである。
命題2:評価制度は、店舗での実践を公共性に開き、文化資本として蓄積する循環を担保すべきである。
5. 結論:評価制度から信頼資本へ
再設計された評価制度は、単に人事管理の道具ではなく、組織文化を支える基盤となる。それは信頼資本の形成であり、思想の贈与を循環させる制度的保証である。
関連ノード
- APPLIED:A2(教育制度と知の継承設計)
- APPLIED:A3(労務管理における思想の制度化)
- THEORY:T7(思想の贈与論の総括)
参考文献(抜粋)
- Bourdieu, P. (1986). Forms of Capital.
- Habermas, J. (1962). Strukturwandel der Öffentlichkeit.
- Polanyi, M. (1966). The Tacit Dimension.
- 小竹竜也(2025-)「思想の贈与論」連載各回



