なぜ「知っているのに、うまくいかない」のか──形式知の限界から始まる連載

「知っているはずなのに、うまくいかない」 「教えたはずなのに、伝わっていない」 「マニュアル通りにやったのに、現場は混乱している」

そんな経験を、私たちはどこかで共有しているのではないでしょうか。

この連載『知の哲学と企業実践──形式知を超えて』は、そうした“知のずれ”や“知の機能不全”を問い直すことから始まります。

本当に「知る」とはどういうことなのか? なぜ「教えたはずなのに伝わらない」「マニュアルに従っても成果が出ない」ことが起きるのか? その背景には、知を“扱いやすく形式化する”ことへの過信と、知の本質への無理解があるのではないか──そんな問題提起から、連載はスタートします。

知とはなにか──形式知の外へ

現代の組織や教育の多くは、知を「形式知」──すなわち言語化され、文書化され、共有できるものとして扱います。 たしかに、形式知は再現性や生産性の向上に大きな力を発揮します。 しかし、すべてを形式知で片付けようとすると、かえって大切なことが抜け落ちてしまう。

  • 1.判断の裏にある「感覚」
  • 2.伝えられない「関係性」
  • 3.語られない「想い」

これらは、形式知には収まりません。 けれども、確かに「知」として私たちの行動や組織文化を支えているのです。

連載の構成──10章の知の地図

本連載では、以下のようなテーマで知のあり方を探究していきます。

  1. 第1章 形式知という幻想──知の限界に気づくために
  2. 第2章 アウフヘーベンの力学──知の統合と超越
  3. 第3章 経と緯の構造──哲学と実践をつなぐ織物としての知
  4. 第4章 実践知の重み──判断と存在の交差点
  5. 第5章 知が形骸化するとき──組織が知を失う瞬間
  6. 第6章 経験と省察──知が育つ時間と間合い
  7. 第7章 根づく知、育つ人──年輪としての知の成長
  8. 第8章 文化と伝統──問いの継承としての知
  9. 第9章 書かれない知──沈黙と余白に宿るもの
  10. 第10章 知の未来──形式を超えて、共に編む

誰のために、何のために
この連載は、次のような問いを抱えたすべての人に向けています。

  • 1.「人を育てるとはどういうことか」と悩んでいる経営者や管理職
  • 2.「教えているのに伝わらない」と感じている教育担当者
  • 3.「マニュアルで動かない現場」を見て違和感を抱いた現場責任者

本当に役に立つ知とは、答えを教えることではなく、共に問いを持つことから始まります。

最後に──知を“ともに生きる”ということ

知は、与えられるものではありません。 ともに問い、ともに躓き、ともに立ち上がるなかでしか育たない。連載の一つひとつが、読者にとっての「問いの入り口」となり、日々の仕事や関係のなかで新たな意味づけをもたらすことを願っています。
どうか、ゆっくりと、味わうように読み進めてください。 あなたのなかにすでにある“知”と対話をするつもりで──。(2025/4/6 小竹)

※この連載は、来週水曜日から毎週1本ずつ、全10回にわたり掲載されます。